入学してしばらく経っても、やりたいことが見つからなかった柚木ミオ。
ある日の放課後、担任の白鳥ミナ先生に連れられて向かった先は、今年できたばかりの「資格部」でした。
この記事では、ミオが白鳥先生や同級生の黒沢レンと出会い、初めて「危険物乙4」に興味を持つまでを描きます。
第1話 放課後、資格部へ
入学式から、しばらく経った頃。
柚木ミオは、新しい学校生活にも少しずつ慣れてきていた。
クラスの中で話せる相手もできた。授業にも、どうにかついていけている。
けれど、何かが足りなかった。
部活動に入っているわけでもない。将来やりたいことが決まっているわけでもない。
周りの生徒が部活や委員会、進路の話をしているのを見るたびに、ミオも「何かした方がいいのかな」とは思う。
ただ、何をすればいいのかは、まったく思い浮かばなかった。
「やりたいことって、どうやって見つけるんだろ……」
放課後の教室で、ミオは机に頬杖をつきながら、小さくつぶやいた。
そのとき、教卓の近くで書類を整理していた白鳥ミナ先生が顔を上げた。
「柚木さん、今日は何か予定がありますか?」
「え? ないですけど」
「それなら、少しだけ私に付き合ってもらえませんか?」
「補習ですか?」
「違いますよ」
白鳥先生は、丸眼鏡の奥で優しく笑った。
「柚木さんに、見てもらいたい場所があるんです」

先生に連れられ、ミオは校舎の端にある教室へ向かった。
普段はあまり人が通らない廊下を進み、白鳥先生が一つの扉の前で立ち止まる。
扉には、真新しい紙で作られた札が貼られていた。
そこには、大きな文字でこう書かれている。
「資格部」
「……資格部?」
ミオは、札と先生の顔を交互に見た。
「名前からして、ものすごく勉強しそうな部活ですね」
「今年から新しく作った部活なんです」
白鳥先生が扉を開ける。
教室の中には、机と椅子が数脚並び、壁際の棚には資格の参考書やパンフレットが置かれていた。
まだ新しく、部室らしい飾りはほとんどない。
「先生が作ったんですか?」
「はい。私も今年からこの学校に来たばかりですから、資格部も新入生のようなものですね」
「先生、新卒だったんだ……」
「驚きましたか?」
「もう少しベテランかと思ってました」
「それは褒め言葉として受け取っておきますね」
白鳥先生は、少し困ったように笑った。

白鳥先生は教室の前方へ移動し、黒板に大きく「資格」と書いた。
「柚木さんは、資格と聞いてどんな印象がありますか?」
ミオは近くの椅子に座り、少し考えてから答えた。
「難しそう、勉強が大変そう、名前が長そう」
「最後は資格によりますね」
「あと、頭がいい人が取るもの?」
白鳥先生は、ゆっくりと首を横に振った。
「資格は、頭のいい人だけが取るものではありませんよ」
先生は黒板に、いくつかの言葉を書き足していく。
・知識を身につける
・目標を作る
・将来の選択肢を増やす
「資格を取っただけで、将来のすべてが決まるわけではありません」
白鳥先生は、黒板の文字を指しながら続けた。
「ですが、勉強を始めるきっかけになったり、自分が学んだことを形にしたりできます。仕事によっては、持っている資格が役立つこともあります」
「仕事に役立つんですか?」
「資格によっては、就職や仕事で評価されることがあります。ただし、資格を持っていれば必ず就職できる、というものではありません」
「なるほど……」
ミオは黒板を眺めながら、少しだけ前のめりになった。
「受験するのに、特別な条件が必要だったりします?」
「誰でも受験できる資格もありますよ」
「学校の勉強が苦手でも?」
「勉強の方法を工夫しながら挑戦できます」
「短い期間で取れるものも?」
「資格の種類や、その人が持っている知識によりますが、比較的始めやすいものもあります」
ミオの表情が、少しずつ明るくなっていく。
「じゃあ、難しすぎない資格を選んで、なるべく楽な方法で勉強すれば、私でも取れる可能性があるってことですか?」
白鳥先生は、少しだけ困ったように笑った。
「都合のよい部分だけを、きれいに拾いましたね」
「大事なところですよ」
「ですが、興味を持つきっかけとしては悪くありません」

そのとき、資格部の扉がゆっくりと開いた。
「失礼します」
教室に入ってきたのは、黒髪の男子生徒だった。
制服をきっちりと着て、片手には何冊かの参考書を抱えている。
ミオは、その顔を見て目を丸くした。
「えっ、黒沢くん?」
黒沢レン。
ミオと同じクラスの男子生徒だ。
授業では先生の質問に淡々と答え、テストでも上位に入っている。ミオとは同じ教室で過ごしているものの、これまでほとんど話したことがなかった。
レンもミオの姿に気づき、わずかに眉を上げた。
「柚木? どうしてここにいるんだ?」
「それ、こっちのセリフなんだけど」
白鳥先生は、二人の顔を交互に見ながら微笑んだ。
「二人とも同じクラスですから、顔は知っていますよね。黒沢くんも、私が資格部に誘ったんです」
「先生が?」
「はい。黒沢くんは資格について詳しいので、力を貸してもらえたらと思いまして」
レンは抱えていた参考書を机の上に置いた。
「黒沢レン。資格について調べたり、勉強したりするのが好きだ。今もいくつかの資格に挑戦している」
「いくつかって、もう取った資格もあるの?」
「まあ、それなりには」
レンは平然と答えたが、その表情はほんの少し得意そうだった。
ミオは、その様子を見て目を細める。
「ちょっと自慢したいだけじゃない?」
「聞かれたから答えただけだ」
「はいはい、すごいですね」
ミオが軽く受け流すと、レンは机の上に置かれた資格の資料へ視線を移した。
「それで、柚木も資格を取るのか?」
「まだ説明を聞いてただけ。でも、私にも取れそうなものがあるなら、やってみてもいいかなって」
「へえ」
レンはミオを見て、少しだけ口元を上げた。
「まあ、お前には続かないだろうけどな」

「……何それ」
ミオは、レンをじっと見返した。
「別に。勉強が苦手なら、無理して始める必要もないだろ」
「まだ何もしてないのに、勝手に決めつけないでよ」
「始めても、面倒になって三日くらいでやめるんじゃないか?」
レンは、からかうように少しだけ笑った。
その言い方に、ミオの眉がぴくりと動く。
「私だって、本気を出せば一個くらい取れるし!」
「へえ。じゃあ、最後まで逃げずにやってみろよ」
「言われなくてもやる!」
勢いよく言い返したあと、ミオは一度黙った。
「……あれ?」
「どうしましたか?」
「私、資格部に入るって言いました?」
白鳥先生は、にこやかな笑顔のまま答えた。
「今、資格を取ると宣言していましたね」
「先生までレンの味方なんですか?」
「味方というより、柚木さんが興味を持ってくれたことがうれしいんです」
白鳥先生は、机の上に置かれていた一冊の資料を手に取った。
表紙には、太い文字で資格名が書かれている。
『危険物取扱者 乙種第4類』
ミオは資料を受け取り、そこに書かれた文字を何度も見直した。
「危険物……乙種……第4類?」
「一般には『危険物乙4』と呼ばれる資格です」
「名前からして、もう難しそうなんですけど」
「さっそく逃げるのか?」
「逃げないし。ちょっと感想を言っただけだから!」
白鳥先生は黒板に「危険物乙4」と書き、その下にガソリン、灯油、軽油と書き加えた。
「危険物乙4は、ガソリンや灯油などの第4類危険物に関係する資格です」
「ガソリンって、ガソリンスタンドの?」
「そうです。ただし、資格を取れば何でも自由に扱えるという意味ではありません。できることや必要な手続きも含めて、これから一緒に確認していきましょう」
ミオは手元の資料にもう一度目を落とした。
ついさっきまで、資格についてほとんど考えたこともなかった。
それでも、レンに無理だと言われたまま引き下がるのは悔しい。
「……分かりました。まずは話を聞いてみます」
「そのくらいからで十分ですよ」
こうしてミオは、自分でも予想していなかった形で、初めての資格に向き合うことになった。
ミオが出会った「危険物乙4」とは?
資格部でミオが最初に挑戦することになった「危険物乙4」。
正式名称は「危険物取扱者 乙種第4類」で、ガソリンや灯油、軽油などの第4類危険物に関係する資格です。
危険物乙4で何ができるのか、受験資格や試験内容、合格基準を知りたい人は、次の記事で詳しく確認できます。




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